私が先ほど『彼女は、あの頃の方とは別の、まったく違うお一人なんですよ』とお伝えしたのは、実は心の仕組みとして、とても大切なことが隠れているからなんです。
私たちの記憶は、顔立ちや声、雰囲気といった『きっかけ』に反応して、当時の感情ごと一気によみがえるようにできているんです。
だから、似た面影を見た瞬間、その方ご本人ではなく、『あの頃の自分の気持ち』のほうが、先に立ち上がってしまうんですね。
心がざわついた本当の相手は、目の前の彼女ではなく、二度と戻らない20代のあなた自身の時間だった、ということなんです。
つまり、あなたが本当に見つめていたのは、失った恋そのものというより、あの頃、まっすぐに人を愛せた若い自分の姿だったのかもしれません。
それは、切なくもあり、同時に、とても尊いことなんですよ。
そしてもう一つ、お伝えしたいことがあります。
こういう揺れが起きたとき、人は『こんな気持ちを持つ自分はおかしいのではないか』と、自分を責めてしまいがちなんです。
でも、感情そのものには、良いも悪いもないんですよ。
ふと浮かんでくる気持ちを止めることは、誰にもできません。
大切なのは、その気持ちが浮かんだあと、どう扱うかだけなんです。
あなたはすでに、その場で笑顔を保ち、息子さんの幸せを願おうとされている。
それだけで、あなたはもう、心の手綱をちゃんと握れているんですよ。
そして、面影が重なって見えたということは、それだけあなたが、その方との時間を、大切にしまい込んでこられたということでもあります。
それは決して、今のご家族への想いが薄いということではありません。
人の心は、古い大切なものと、新しい大切なものを、どちらも並べてしまっておける、広い場所なんですよ。
胸のざわめきは、消さなくていいんです。
無理にフタをすれば、かえって大きくなってしまうこともありますからね。
『あの頃、大切な人がいた』。
『そして今、息子も大切な人に出会えた』。
その二つを、静かに並べて、胸に置いておく。
それだけで、揺れは少しずつ、穏やかな思い出の色に変わっていきますよ。
焦らなくて、大丈夫ですからね。
あなたのその優しい心は、これからも、ちゃんとあなたと、ご家族を守ってくれますから。