私が先ほど『まさか会社では言ってないよね』とお伝えしたのは、実は心の仕組みとして、とても大切なことが隠れているからなんです。
人は、『あなたはセクハラおじさんだ』というふうに、人格そのものを否定されると、心が身を守ろうとして、反射的に反発してしまうんですね。
ご主人の『冗談が通じない』『お前たちのほうがピリピリしてる』という逆ギレも、実は、自分の存在を守ろうとする防衛反応なんです。
だから、正面から『あなたが間違っている』とぶつかっても、心の扉は、ますます固く閉じてしまうんですよ。
そこで大切になるのが、人格ではなく、『行動』と『事実』のほうに光を当てることなんです。
『会社で言ったらセクハラになる』というのは、あなたは悪い人だ、という話ではありません。
その行動には、現実にこういうリスクがあるよ、という事実の話なんですね。
すると、ご主人は自分を丸ごと否定されずに済むので、逃げ道を残したまま、行動を見直しやすくなるんです。
それに、ご主人が若い人に声をかけてしまう裏側には、まだ自分は嫌われていない、現役でいられる、そんな自分を確かめたい気持ちが隠れていることも、少なくないんです。
もちろん、それを娘さんの前で続けていい理由には、決してなりませんよ。
ただ、その奥にある心細さのようなものが見えてくると、頭ごなしにぶつからずに、少し落ち着いて伝えられるようになるんですね。
本当にぶつかっているのは、夫婦のどちらが正しいか、ではないんですよ。
『家族を大切にしたい』という、実は同じ願いが、すれ違ったまま出口を見失っているだけなんです。
そして、もうひとつ。
『またか』と慣れてしまうことは、あなたが強いからではなくて、これ以上心が疲れないように、感覚を少しずつ麻痺させているサインでもあるんです。
でも、麻痺させたぶんだけ、本当は傷ついていた気持ちが、ちゃんと胸の奥に残っています。
それから、娘さんが見せたあの『ドン引き』も、どうか否定しないであげてくださいね。
おかしいと感じたものを、きちんとおかしいと感じ取れる。
それは、あなたが娘さんのそばで育ててきた、健やかな感覚なんです。
これを読んでくださっている、家族の空気を守るために、ずっとひとりで気を張ってきたあなたへ。
『おかしい』と感じるその感覚を、どうか手放さないでくださいね。
それは、あなたと娘さんを守ろうとする、大切なセンサーなんです。
相手を変えようと力む前に、まずは『私はこう感じているよ』と、静かに言葉にしてみる。
それだけで、固く閉じていた扉が、ほんの少しゆるむことがあるんですよ。
焦らなくて、大丈夫ですからね。