私が先ほど「過去の記憶は、いい部分だけが上澄みのように残りやすい」とお伝えしたのは、実は心の仕組みとして、とても大切なことが隠れているからなんです。
私たちの記憶は、ビデオのように出来事をそのまま保存しているわけではないんですね。
時間が経つほど、つらかった感情はやわらぎ、心地よかった感情のほうが色濃く残っていく。
これは、心が自分自身を守るために備えている、とても自然な働きなんです。
だから、終わったはずの関係を思い出すとき、そこに残っているのは「良かった場面」ばかりになりやすい。
決して、あなたの気持ちが弱いからでも、いい加減だからでもないんですよ。
そこへ、SNSというもう一つの仕掛けが重なります。
人は、SNSに「見せたい自分」だけを並べるものなんです。
うまくいった旅行、おいしかった食事、充実して見える一日。
その裏側にある疲れや迷いや、眠れない夜は、写真には写りません。
きっと彼にも、彼にしか見せない疲れや、うまくいかない夜が、ちゃんとあるはずなんです。
つまりあなたは、美化された記憶と、切り取られた他人の幸せ。
その二つを重ね合わせて、「あの人は今、すべてうまくいっている」という一枚の絵を、心の中でつくり上げてしまっているんです。
そして、本当にあなたの心をざわつかせているのは、実はその男性そのものではないのかもしれません。
ぶつかっているのは、「今の自分の暮らしは、これでいいのだろうか」という、あなた自身への静かな問いなんです。
充実して見える誰かを目にしたとき、人はつい、自分の日常の地味な部分と比べてしまいます。
しかも、相手のいちばん輝いた瞬間と、自分のいちばんくたびれた瞬間とを並べてしまうから、よけいに心が沈んでしまうんですね。
でも、あなたの毎日にも、写真には写らないやさしさや、少しずつ積み重ねてきた安心が、確かにあるはずなんですよ。
これを読んでくださっている、心をざわつかせながらも、それでも自分の生活を大切にしたいと願っているあなたへ。
ざわつく気持ちを抱いてしまう自分を、どうか責めないでくださいね。
それはきっと、あなたが今の暮らしをちゃんと大事に思っているからこそ、揺れているんです。
通知を消して、そっと画面を閉じる。
たったそれだけのことが、あなたの心を守る、いちばんやさしい選択になることもあるんですよ。
焦らなくて、大丈夫ですからね。