20年来の「親友」という名の呪い
「あんたのお母さんはバカで、見た目もキモいね!」
あの日、私の家で遊びに来ていた彼女は、私の愛する娘に向かって笑いながらそう言い放った。
心臓が冷水に浸かったように冷たくなるのを感じた。私がずっと恐れていたことが、現実になった瞬間だった。
私と彼女は17歳からの付き合いだ。高校時代から、彼女にとって私は「いじっていいサンドバッグ」だった。
私の容姿を馬鹿にし、頭を叩き、家族のタクシー代わりに使われる日々。
「私しか友達がいないんだから大事にしなよ」という言葉に縛られ、私は「いじられキャラでいれば彼女は喜んでくれる、これが私たちの友情なのだ」と思い込んでいた。
しかし、事態は最悪の結末を迎えた。
彼女の言葉を聞いた娘は、一瞬悲しそうな顔をした後、へらっと笑って「ほんとだ、お母さんキモいね」と彼女に同調してしまったのだ。
自分の大切な子供にまで、私を見下す呪いが感染してしまった。
その日、私は震える指で彼女のLINEをブロックし、着信拒否を設定した。20年続いた関係を、自らの手で断ち切ったのだ。
インターホン越しの恐怖と罪悪感
ピンポーン、ピンポーン。
無機質なインターホンの音が、静まり返ったリビングに響き渡る。モニターには、不満げな顔をした彼女の姿が映っていた。
「どうしたの? なんで? いつまでも待ってるから!」と、ドア越しに叫ぶ声が聞こえる。
ブロックしてから数日、彼女は何度も家に押しかけてくるようになった。その執念深さに恐怖を感じる一方で、暗い部屋の隅で膝を抱える私の心には、どす黒い罪悪感が渦巻いていた。
20年も一緒にいたのだ。彼女なりの愛情表現だったのかもしれない。
私の心が狭かっただけではないか。本当に縁を切ってよかったのだろうか。私がもう少し我慢していれば、こんな事態にはならなかったのに。
思い出されるのは、いつも彼女の横で引きつった愛想笑いを浮かべ、苦しそうにしている自分の姿ばかり。それでも「親友」という言葉の重さが、私の心を縛り付けて離さなかった。
ふてぶてしい猫が教えてくれた「依存」の正体
お前、自分で自分の首を絞めるのが趣味なのかニャ?
突然、背後から野太い声がした。驚いて振り返ると、いつの間にか開いていたベランダの窓辺に、お腹をでっぷりとさせた三毛猫が座っていた。ふてぶてしい顔つきで、前足を器用に舐めている。
「え……猫? どこから入ってきたの?」
「我輩はフクだニャ。お前、さっきからため息ばっかりで、部屋の空気がカビ臭いニャ」
フクと名乗った猫は、ずんぐりした体でノシノシと歩み寄り、私の膝に勝手に顎を乗せた。幻覚かと思ったが、その重みと温かさはやけにリアルだった。
「だって……20年来の友達を、私のわがままで切っちゃったから……」
「バカなことを言うニャ」 フクは鼻で笑うようにヒゲを揺らした。
「20年続いたからって、腐ったエサを食べ続ける猫はいないニャ。お前はただの都合のいい『爪とぎ』だったんだニャ。あいつはお前という爪とぎがなくて暴れてるだけ。お前も、爪とぎにされることで自分の存在価値を見出してただけだニャ。」
依存。その言葉が、頭の中でカチリとはまった。 彼女は私を下に見ることで優越感に浸り、私は彼女に尽くすことで「必要とされている」と安心していたのだ。
「自分のテリトリーを荒らす奴から逃げるのは、生き物の基本だニャ。子供を守るためにシャーッて威嚇して逃げたお前は、親として百点満点だニャ。もし本当に縁があるなら、お互いにまともな頭になった時にまた会えるニャ」
守るべきもののために、私は逃げる
再び、インターホンが鳴った。 ビクッと肩を震わせた私を、フクは金色の瞳でじっと見つめていた。「堂々としてろニャ」と言っているように見えた。
私はモニターを一瞥し、そして、電源を静かに落とした。
もう、彼女のサンドバッグにはならない。彼女のご機嫌をとるために、自分をすり減らすのはやめよう。これからは、私の大切な娘と、私自身を一番に守るのだ。
「……そうだね。逃げて正解だったんだ」
膝の上の重みは消えていた。フクの姿はどこにもない。しかし、胸の中にあった重苦しい泥のような罪悪感は、すっかりと晴れていた。
お昼寝から目を覚ました娘が、目を擦りながらリビングにやってきた。私は娘をぎゅっと抱きしめ、その小さな背中をトントンと叩きながら、はっきりと伝えた。
「嫌なことを言ってくる人からは、ちゃんと距離をとって逃げていいんだよ。お母さんが、絶対に守るからね」
窓の外は、いつの間にかスッキリとした青空が広がっていた。もう、振り返らない。私は私と娘のための、新しい人生を歩き始める。
登場人物紹介:フク
おう、俺の名前は「フク」だニャ。
たまお悩み相談室のWEB小説に、気まぐれでふらりと現れる猫だニャ。
ちょっと太めでふてぶてしい顔? うるさいニャ、これが俺のベスト・フォルムなんだから放っておけニャ。
俺の生き方は究極の「自分ファースト」だニャ。
美味しいおやつをもらった時しか喉は鳴らさないし、愛想笑いなんて絶対にしない。人間の社会にある「こうあるべき」とか「いい妻・いいお母さんでいなきゃ」なんていう謎のルール、俺たち猫には一切関係ないニャ。
なんで俺がアンタの前に現れるかって?
他人の顔色ばっかり伺って、自分を押し殺してボロボロになってる人間を見ると、なんだか見ててイライラするからだニャ。「自己犠牲」なんていう重たいもん背負ってるアンタに、俺が身も蓋もないツッコミを入れてやるニャ。
人間ってほんと、面倒くさい生き物だニャ。
嫌な時は噛む、寝たい時は寝る。それで嫌われるなら上等だニャ。アンタも俺みたいに、ガチガチに固まった肩の力を抜いて、もうちょっとワガママに生きてみろニャ🐾








