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「また転んだの?」冷たい言葉の裏にある、私の本当の気持ち | 老いていく両親と同居する50代独身女性の葛藤

変わっていく両親、変われない私

「ただいま……」

薄暗い玄関で靴を脱ぐと、リビングから漏れるテレビの音が耳にまとわりついてきた。ため息を一つこぼし、重い足取りでドアを開ける。

そこには、ソファに横たわり、口を半開きにして眠る父の姿があった。昼から夕方まで、まるで置物のようにテレビの前を動かない。そしてダイニングテーブルの椅子では、母がズボンの裾をまくり上げ、痛々しい青アザに湿布を貼っている。

「……お母さん、また転んだの?」

私の声は、自分でも驚くほど冷たく、刺々しかった。

「ああ、ちょっとスーパーの前の段差でね。大したことないのよ」 申し訳なさそうに笑う母の顔は、昔よりもずっとシワが増え、小さく見えた。

「気をつけてっていつも言ってるじゃない! なにかあったらどうするのよ!」

強い口調で言い放ち、私は逃げるように自分の部屋へ向かった。背中に刺さる母の沈黙が痛い。

本当は、怪我をしていないか心配でたまらないのだ。

かつて私を力強く守ってくれた両親が、どんどん弱っていく姿を見るのがたまらなく切ない。

老いていく現実を受け入れられず、その辛さを両親への怒りとしてぶつけてしまう。 そんな自分が、心の底から嫌だった。

誰も悪くないのに、息が詰まる部屋

ベッドに倒れ込み、スマホの画面を無意味にスクロールする。検索履歴には「高齢者 同居 限界」「親 別居」といった文字が並んでいた。

いっそ家を出て、一人暮らしをしようか。その方がお互いのためかもしれない。何度もそう考えた。

でも、もし私がいない間に母が大きな怪我をしたら? 父が倒れたら? そう思うと、恐怖で足がすくんで踏み切れないのだ。

親には優しくしなければならない。一緒に暮らしているのだから、私が支えなければならない。世間の「いい娘」のハードルが、真綿のように私の首を絞める。

「どうして私ばかり、こんなに苦しい思いをしなきゃいけないの……」

薄暗い部屋の空気が、私の孤独と自己嫌悪でどろどろに濁っていくのを感じた。涙が一滴、スマホの画面に落ちて弾けた。

ふてぶてしい訪問者と、非常識な提案

フク フク

ジメジメしてて、寝心地が悪い部屋だニャ

突然、野太い声が響いた。驚いて顔を上げると、いつの間にか開いていた窓のサッシに、一匹の猫が座っていた。ふてぶてしい顔つきで、お腹の肉がたっぷりと垂れ下がった、少し太めの三毛猫だ。

「えっ……猫? どこから入って……」

「我輩はフクだニャ。お前、眉間にシワ寄りすぎだぞ。そんな顔してたら、カリカリも不味くなるニャ」

幻覚でも見ているのだろうか。しかし、フクと名乗ったその猫は、ドスンという重い音を立ててベッドに飛び乗ると、私の足元で堂々と丸くなった。

「親がヨボヨボになって悲しいからって、当人に八つ当たりして自己嫌悪? 人間ってのは本当に面倒くさい生き物だニャ」

フクは前足を舐めながら、呆れたように鼻を鳴らした。

「だって……辛いじゃない。どんどんできなくなっていく姿を見るのは」

「それが自然の摂理ってやつだニャ。できないことを数えてメソメソする暇があったら、今できることで楽しめばいいだけだニャ。

「楽しむ……?」

フクは私を金色の瞳で見据え、ニヤリと笑ったように見えた。

「ババアが転ぶのが心配なら、『荷物持ちしてやるから、奢れニャ』って一緒について行けばいいだろ。ジジイが寝てばかりなら、『風邪ひくなニャ』って最高に手触りのいい毛布でもくれてやれ。親のためじゃない、お前自身が気分良く過ごすためにやるんだニャ。 自己犠牲なんて、猫の辞書にはない言葉だニャ」

新しい休日の過ごし方

翌朝、目が覚めるとフクの姿はどこにもなかった。窓はしっかりと閉まっている。夢だったのだろうか。

しかし、フクの「自分自身が気分良く過ごすため」という言葉が、不思議と胸の中で温かく光っていた。私は大きく深呼吸をして、リビングのドアを開けた。

「お母さん」 朝食の準備をしている母に、私は努めて明るい声で話しかけた。

「今日、スーパー一緒に行こうか。特売日だし、私が車出すから、重いお米とかまとめ買いしちゃおうよ。その代わり、帰りにお茶ごちそうしてね」

母は驚いたように目をパチクリとさせた後、顔をほころばせた。

「……ええ、助かるわ。美味しいケーキでも食べましょうか」

そして私はスマホを取り出し、父のために、ネットで見つけた肌触りの良いオーガニックコットンのタオルケットをカートに入れた。

両親が老いていく現実は変わらない。不安が完全に消えたわけでもない。

でも、悲しみに縛られて冷たく当たるくらいなら、少しワガママに、私が笑って過ごせる方法を選んでもいいのだ。

「ありがとう、フク」

小さな声で呟くと、どこからか「気楽に生きろニャ」という声が聞こえた気がした。私は、少しだけ軽くなった足取りで、キッチンに立つ母の隣へ並んだ。

登場人物紹介:フク

フク

おう、俺の名前は「フク」だニャ。
たまお悩み相談室のWEB小説に、気まぐれでふらりと現れる猫だニャ。
ちょっと太めでふてぶてしい顔? うるさいニャ、これが俺のベスト・フォルムなんだから放っておけニャ。

俺の生き方は究極の「自分ファースト」だニャ。
美味しいおやつをもらった時しか喉は鳴らさないし、愛想笑いなんて絶対にしない。人間の社会にある「こうあるべき」とか「いい妻・いいお母さんでいなきゃ」なんていう謎のルール、俺たち猫には一切関係ないニャ。

なんで俺がアンタの前に現れるかって?
他人の顔色ばっかり伺って、自分を押し殺してボロボロになってる人間を見ると、なんだか見ててイライラするからだニャ。「自己犠牲」なんていう重たいもん背負ってるアンタに、俺が身も蓋もないツッコミを入れてやるニャ。

人間ってほんと、面倒くさい生き物だニャ。
嫌な時は噛む、寝たい時は寝る。それで嫌われるなら上等だニャ。アンタも俺みたいに、ガチガチに固まった肩の力を抜いて、もうちょっとワガママに生きてみろニャ🐾

※本記事は、「たまお悩み相談室」に寄せられた相談をもとに、相談者の個人が特定されないよう変更を加えながら構成しています。

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