未読のままの「元気ですか?」と、理不尽な過去
テーブルの上に置いたスマホの画面が明るくなり、短い通知音がリビングに響いた。 差出人は「母」。
画面に表示された『元気ですか?』という短いプレビュー文字を見た瞬間、私の心臓は嫌な音を立てて早鐘を打ち始めた。
子供の頃から病気の親や家計を必死に支え、自立して生きてきた私。それなのに両親は、いつまでも親に頼りきりの弟ばかりを可愛がり、私に内緒で弟の家や車の資金まで多額の援助をしていた。
極めつけは2年前だ。
弟が不倫をして離婚することになった際、父は「弟の円満離婚のために資金援助したいから知恵を貸せ」と言い放ったのだ。
両親の老後を心配して苦言を呈した私に対し、父は激怒。弟からも逆恨みされ、「縁を切る!」と罵声を浴びせられて以来、ずっと絶縁状態が続いていた。
着信音に怯える、逃げ場のない孤独
それなのに、なぜ今になって連絡してくるのか。 これまでも、両親から連絡が来るのは決まって「困った時」や「お金が必要な時」だけだった。
このメールを開けば、また厄介事を押し付けられ、親の散財の片棒を担がされるに決まっている。
そう思うと恐ろしくて、メッセージを開くことができない。
スマホを裏返し、ギュッと目を閉じた。 それでも、心のどこかで「親を見捨てる薄情な娘」という罪悪感が私をチクチクと刺し続ける。
こんなに理不尽な思いをしてきたのに、まだ「長女としての責任」に縛られている自分が情けなく、誰にも相談できない孤独感に押し潰されそうになっていた。
薄情で上等。猫が教えた「究極の自己防衛」
ニャんだ、その震える背中は。ただの板切れの通知にビビってバカみたいだニャ
不意に、背後からしゃがれた声がした。驚いて振り返ると、ふてぶてしい顔つきの、ちょっと太めの猫がソファの背もたれにどっかと座っていた。
え……? どこから入ったの?
オレ様はフクだニャ。お前、随分と都合のいい『お財布兼サンドバッグ』にされてるニャア
フクは短い前足で器用に耳を掻きながら、私を鼻で笑った。
だって、お母さんからのメール……読まないと薄情だって思われるかもしれないし
アホかニャ! 読みたいと思えないなら、一生放置しておけばいいニャ!
フクは大きなあくびをして、ビー玉のような目で私を真っ直ぐに射抜いた。
お前の親は、相談してくるくせにお前の意見は聞かない連中だニャ。まともに取り合うだけエネルギーの無駄だニャ
でも、もし本当に大変な事態だったら……
本当に命に関わるようなヤバい時は、メールなんかじゃなく電話してくるか、直接家に転がり込んでくるニャ。それまでは完全に距離を置いて、自分の平穏だけを死守するニャ!
フクの身も蓋もない、けれどあまりにも的を射た言葉に、私はハッとした。
そうだ。私はもう、親の機嫌や尻拭いのために自分の人生をすり減らす必要なんてないのだ。
命に関わる時だけ、か……。なんだか、少し気が楽になった
私が呟くと、フクは「自分の幸せに専念しろニャ」と鼻を鳴らし、窓の隙間からふらりと夜の闇へ消えていった。
私は裏返していたスマホを手に取ると、迷うことなくそのメッセージの通知をオフにした。
冷めた紅茶をシンクに流し、自分のために新しいお湯を沸かす。もう、あの着信音に怯える夜は終わりにしよう。
登場人物紹介:フク
おう、俺の名前は「フク」だニャ。
たまお悩み相談室のWEB小説に、気まぐれでふらりと現れる猫だニャ。
ちょっと太めでふてぶてしい顔? うるさいニャ、これが俺のベスト・フォルムなんだから放っておけニャ。
俺の生き方は究極の「自分ファースト」だニャ。
美味しいおやつをもらった時しか喉は鳴らさないし、愛想笑いなんて絶対にしない。人間の社会にある「こうあるべき」とか「いい妻・いいお母さんでいなきゃ」なんていう謎のルール、俺たち猫には一切関係ないニャ。
なんで俺がアンタの前に現れるかって?
他人の顔色ばっかり伺って、自分を押し殺してボロボロになってる人間を見ると、なんだか見ててイライラするからだニャ。「自己犠牲」なんていう重たいもん背負ってるアンタに、俺が身も蓋もないツッコミを入れてやるニャ。
人間ってほんと、面倒くさい生き物だニャ。
嫌な時は噛む、寝たい時は寝る。それで嫌われるなら上等だニャ。アンタも俺みたいに、ガチガチに固まった肩の力を抜いて、もうちょっとワガママに生きてみろニャ🐾








