私名義の5,000万円と、見栄っ張りの彼
テーブルの上に置かれた抗うつ剤のシートを、ぼんやりと見つめる。
20代にして「バツイチ」となった私の心は、未だに深く重い泥沼に沈んだままだ。
元夫は、とにかく見栄っ張りの人だった。家を建てることになった時、彼のローンが通らなかったため、なんと私名義で5,000万円以上のローンを組むことになったのだ。彼好みの豪華なオプションがこれでもかと詰め込まれた家。
完成したその煌びやかな空間で、彼は悪びれもせず言った。
次は子供だね
さらに姑からは「家事は女がやるものよ」と冷たく釘を刺される始末。
私の人生は、彼の見栄と世間体を満たすための道具なのだろうか。
このままでは自分が壊れてしまう。強烈な不安と息苦しさに耐えきれず、私はついに自ら離婚を切り出したのだ。
「彼を守れなかった」という呪縛と孤独
幸いにも今の私には、すべてを受け入れて支えてくれる新しい彼氏や、優しい友人たちがいる。彼らのためにも、早くこの暗闇から抜け出して心から笑いたい。
それなのに、ふとした瞬間に真っ黒な感情が私を飲み込む。
彼の一人の人生を、最後まで守り抜けなかった
その悔しさと強烈な罪悪感が、呪いのように私の心を蝕んでいるのだ。
「私がもっと我慢すればよかったんじゃないか」
「また同じ失敗を繰り返すんじゃないか」
新しい恋人に微笑みかけられるたび、自分には幸せになる資格などないような気がして、無意識に自分を責め続けてしまう。責めなければならないような気さえして苦しい。
ベッドに身を横たえながら、私は出口のない自問自答を延々と繰り返していた。
私は「すごい」。猫が教える新しい一歩
ニャんだ、その陰気臭い顔は。せっかくの若さが台無しだニャ
突然、足元からしゃがれた声がした。驚いて跳ね起きると、ふてぶてしい顔つきの、ちょっと太めの猫がベッドの端に丸くなっていた。
え……? どこから入ってきたの?
オレ様はフクだニャ。お前、勝手に他人の人生まで背負い込んで自爆してるアホだニャ
フクは短い前足で顔を洗いながら、私を鼻で笑った。
だって、私が彼を見捨てたから……。私が失敗したから……
アホかニャ! 前の男の人生は、前の男が自分でなんとかするものだニャ! お前が守ってやる義理なんてないニャ!
フクは大きなあくびをして、ビー玉のような目で私を真っ直ぐに射抜いた。
若くして5,000万もの借金背負って、ヤバいと思ったらさっさと見切りをつけて人生再構築したんだろ? 客観的に見て、お前はめちゃくちゃ行動力のある『すごい奴』だニャ!
私が、すごい……?
そうだニャ。失敗なんかじゃない、これまでのことは全部お前の人生の立派な『道中』だニャ。もっと自分を褒めて、誇りに思うニャ。自分の幸せにこだわるニャ!
フクは「ふんっ」と鼻を鳴らすと、窓の隙間からふらりと消えていった。
私、すごかったんだ……
ぽつりと呟いた瞬間、胸につっかえていた冷たい塊が、少しずつ溶けていくのを感じた。
他人の人生の責任ではなく、自分の人生を生き抜く力。私にはそれがあったのだ。
スマホを手に取り、新しい彼に「明日、一緒に出かけよう」とメッセージを打つ。
まだ薬は必要かもしれない。でも、私はもう、自分が幸せになることに遠慮はしない。
登場人物紹介:フク
おう、俺の名前は「フク」だニャ。
たまお悩み相談室のWEB小説に、気まぐれでふらりと現れる猫だニャ。
ちょっと太めでふてぶてしい顔? うるさいニャ、これが俺のベスト・フォルムなんだから放っておけニャ。
俺の生き方は究極の「自分ファースト」だニャ。
美味しいおやつをもらった時しか喉は鳴らさないし、愛想笑いなんて絶対にしない。人間の社会にある「こうあるべき」とか「いい妻・いいお母さんでいなきゃ」なんていう謎のルール、俺たち猫には一切関係ないニャ。
なんで俺がアンタの前に現れるかって?
他人の顔色ばっかり伺って、自分を押し殺してボロボロになってる人間を見ると、なんだか見ててイライラするからだニャ。「自己犠牲」なんていう重たいもん背負ってるアンタに、俺が身も蓋もないツッコミを入れてやるニャ。
人間ってほんと、面倒くさい生き物だニャ。
嫌な時は噛む、寝たい時は寝る。それで嫌われるなら上等だニャ。アンタも俺みたいに、ガチガチに固まった肩の力を抜いて、もうちょっとワガママに生きてみろニャ🐾








