不採用通知と、カレンダーの「出産予定日」
『誠に残念ながら、今回はご縁がなかったということで――』
スマホの画面に映る、何度目かもわからない定型文のメール。ため息と共に画面を閉じると、リビングの静寂がやけに重く感じられた。
昨年仕事を退職し、再就職を目指して求人サイトを睨む毎日。しかし、50代という年齢の壁と勤務時間の条件が合わず、焦りばかりが空回りしていた。
ふと、壁に掛かったカレンダーに目をやる。今年の秋の欄には、赤いペンで大きく丸がつけられている。息子夫婦に双子の孫が生まれる予定なのだ。
お嫁さんは外国の方で、遠く離れた母国には頼れる実のお母様がいない。
「お義母さん、産後のサポートをお願いできませんか?」
そう頼まれた時、私は二つ返事で引き受けた。可愛い孫のためだし、異国で出産する彼女を支えてあげたいと心から思ったからだ。
蓋をした「働きたい」という本音
しかし、日が近づくにつれて、私の中に得体の知れないモヤモヤが広がり始めていた。 双子の赤ちゃんの世話となれば、付きっきりになるのは目に見えている。
これでまたしばらく、仕事には行けなくなるな
その思いが、どうしても頭から離れないのだ。
サポートすること自体が嫌なわけではない。でも、私には「まだまだバリバリ働きたい」という強い意欲がある。社会と繋がり、自分の足で立ちたい。
その気持ちに蓋をして、「良いおばあちゃん」「頼りになる義母」の仮面を被り続けるのが、息苦しくてたまらなかった。
誰にも言えない本音を抱え、私の人生はこのままフェードアウトしていくのだろうか。
薄暗い部屋の中で、やり場のない焦燥感が私の胸をギリギリと締め付けていた。
自分の人生を最優先にするという「常識」
ニャんだ、その世の中の不幸を全部背負ったようなツラは
唐突に、足元から声が降ってきた。驚いて飛び退くと、そこにはふてぶてしい顔つきの、ちょっと太めの猫が座っていた。
どこから入り込んだのか、我が物顔でクッションを陣取っている。
あ、あなたは……?
オレ様はフクだニャ。お前、随分とお人好しだニャア
フクは長い尻尾をパタパタと揺らしながら、私を鼻で笑った。
自分が産むわけでもないのに、なんでお前が自分の人生を後回しにしてるニャ?
だって、お嫁さんにはお母さんがいないのよ。私が手伝うのが常識でしょ?
ムキになって反論する私に、フクは呆れたようにあくびをした。
アホかニャ。孫は息子夫婦が力を合わせて育てるものだニャ。お前の第一優先事項じゃないニャ
でも……
他人の事情より、まずは『自分が働きたい』という気持ちを一番にするニャ。子育てなんて、余った体力で手伝ってやるくらいで十分だニャ!
ビー玉のような丸い目で真っ直ぐに見据えられ、私はハッとした。
そうだ。私はいつの間にか、「自己犠牲」こそが正しい愛情だと思い込んでいたのだ。
自分の人生の主役は、自分だニャ。もっとワガママに生きるニャ
フクは「ふんっ」と鼻を鳴らすと、窓の隙間からふらりと消えていった。
余力で手伝う、か……
魔法が解けたように、心がスッと軽くなるのを感じた。
求人サイトのアプリを開き、私は新しい気持ちで検索ボタンを押した。
まずは私の人生を楽しむこと。孫を抱くのは、仕事終わりの楽しみにとっておけばいいのだから。
登場人物紹介:フク
おう、俺の名前は「フク」だニャ。
たまお悩み相談室のWEB小説に、気まぐれでふらりと現れる猫だニャ。
ちょっと太めでふてぶてしい顔? うるさいニャ、これが俺のベスト・フォルムなんだから放っておけニャ。
俺の生き方は究極の「自分ファースト」だニャ。
美味しいおやつをもらった時しか喉は鳴らさないし、愛想笑いなんて絶対にしない。人間の社会にある「こうあるべき」とか「いい妻・いいお母さんでいなきゃ」なんていう謎のルール、俺たち猫には一切関係ないニャ。
なんで俺がアンタの前に現れるかって?
他人の顔色ばっかり伺って、自分を押し殺してボロボロになってる人間を見ると、なんだか見ててイライラするからだニャ。「自己犠牲」なんていう重たいもん背負ってるアンタに、俺が身も蓋もないツッコミを入れてやるニャ。
人間ってほんと、面倒くさい生き物だニャ。
嫌な時は噛む、寝たい時は寝る。それで嫌われるなら上等だニャ。アンタも俺みたいに、ガチガチに固まった肩の力を抜いて、もうちょっとワガママに生きてみろニャ🐾








