街にあふれる「触れてもらえる」人たち
駅前の交差点で信号待ちをしていると、目の前で身を寄せ合うカップルがふざけ合いながら手を繋いだ。ただそれだけの、ありふれた日常の光景。
なのに、私の目からはポロポロと涙がこぼれ落ちていた。「あの人は、触れてもらえるんだな……」 マスクの下で震える唇を噛み締めながら、急いでうつむく。
ここ数ヶ月、街で家族連れや恋人たちを見るたびに、あるいはドラマの恋愛シーンを見るだけでも、こんな風に涙腺が崩壊してしまう。
家に帰り、暗い部屋のベッドに倒れ込んでスマホの画面を開く。もう何度見返したかわからない、彼との最後のLINE。
半年付き合った彼から突然送られてきたのは、『性欲がなくなった。触れたいと思わない。きつい。自分は男でも女でもない』という冷酷なメッセージだった。あまりのショックで文字が頭に入らず、指が震えてどうしても返信できなかった。
すると数時間後、『返事をくれないほど悩ませているなら別れた方がいい。無視するのはどうかと思う。正直冷めた』と、一方的に突き放された。
理由が本当か嘘かなんて、もうどうでもいい。ただ、愛していたはずの人から「触りたくない」と明確に拒絶された事実が、鋭い刃物のように私の女性としての尊厳をズタズタに切り裂いていた。
「また拒絶されるのでは」という呪い
誰にも言えなかった。親にも、親しい友達にも、「彼氏に『触りたくない』って振られた」なんて、惨めすぎて口が裂けても言えなかった。
世の中の男性全員が彼のような人ではないと、頭ではわかっている。それでも、この先の未来で新しい誰かと出会う想像をするだけで、恐怖で息ができなくなる。
「またセックスレスになったら?」
「また女として見られないと拒絶されたら?」
その恐怖は呪いのように私の心にこびりつき、足枷となっていた。私に魅力がないからいけなかったのだろうか。あの日、何か気の利いた返信をしていれば、結果は違ったのだろうか。
暗闇の中で、一人で答えの出ない問いを繰り返し、ただただ自分の自信を削り取っていく日々。
怒りと、自分へのごめんなさい
しかし、ある夜、湯船に浸かってぼんやりと天井を眺めていたとき、ふと胸の奥底から真っ黒な感情が湧き上がってくるのを感じた。
「……なんで、私がこんなに苦しんでるの?」
私にも悪いところがあったなんて、少しも思う必要はないんじゃないか。 あんなに自分勝手な理由で、人の心をこれほど深く傷つけておいて、自分だけすっきりして平気でいるなんて、あまりにも酷すぎる。もっと、彼に対して「ふざけないで!」と怒ってよかったんだ。
悲しみの底に沈むあまり、私は彼への正当な「怒り」を無意識に封じ込めていたことに気づいた。
そして同時に、思い返してみれば、この半年間、私はいつも彼の顔色をうかがっていた。嫌われたくなくて、自分の本当の気持ちをグッと飲み込み、彼にばかり合わせていた。
「ごめんね、私」
お湯の中で、私はそっと自分の腕を抱きしめた。本当の気持ちより彼を優先し、私自身を粗末に扱ってしまったこと。それに一番謝らなきゃいけないのは、他の誰でもない、私自身に対してだ。
もう、誰かに拒絶されることを恐れて怯えるのはやめよう。私を拒絶して傷つけるような人と、わざわざ一緒にいる必要なんてない。そんな人といるくらいなら、一人のほうがずっと幸せだ。
「誰かに受け入れてもらう」ためじゃない。まずは私が、私自身の素晴らしさを認めて、一番に大切にしてあげるんだ。
今はまだ、傷口が痛んで泣いてしまう日もあるかもしれない。けれど、我慢ばかりの恋はもう終わりにした。
深く息を吸い込むと、冷え切っていた心の奥に、ほんの少しだけあたたかい灯りがともるのを感じた。







