酔った彼女のボディタッチと、冷え切る心
「仕事がやりづらくなるから、会社では絶対に秘密ね」
その言葉を守り、同じ職場で働く40代のシングルマザーである彼女と付き合い始めて、もう5年になる。 彼女と子供の生活を少しでも支えたいと、毎月の金銭的な援助も惜しまなかった。
私は相思相愛だと信じていた。 しかし最近、彼女の行動にどうしても目を瞑れなくなってきた。
会社の飲み会で酒が入ると、彼女は私の目の前で、平気で他の男性社員に過剰なボディタッチをするのだ。 後で注意しても、「考えすぎ。ただのスキンシップよ」と笑って取り合ってくれない。
そして先日、ついに決定的な出来事があった。 あろうことか、会社の既婚男性と二人で飲みに行き、彼が泊まるホテルの近くまで送ってもらった、と事後報告してきたのだ。
驚いて問い詰める私に対し、彼女は不機嫌そうに言い放った。
「何もなかったから、こうして報告できるんでしょ? 疑うなんてひどい!」
逆ギレする彼女の顔を見つめながら、私の中で何かが冷たくひび割れていくのを感じた。 私が何よりも大切にしたい「誠実さ」や「貞操観念」は、彼女には微塵もないようだった。
50代の情けない執着と、誰にも言えない秘密
ワンルームの薄暗い部屋で、私は缶ビールを煽りながら深いため息をついた。
いい歳をした50代の男が、一回り下の女性に振り回され、嫉妬で身を焦がしている。 関係は秘密だから、会社の誰にも相談できない。
彼女の奔放な振る舞いに傷つきながらも、「彼女には僕の支えが必要なんだ」と自分に言い聞かせてきた。 援助を続けることで、彼女の心をつなぎ止めようとしていたのかもしれない。
でも、もう「好き」という感情だけではやっていけない。 このまま彼女の都合の良いように扱われ、なし崩し的にワガママを受け入れ続けるだけの人生でいいのか。
情けなくて、惨めで、飲みかけのビール缶をテーブルに強く打ち付けた。
厚かましい珍客と、自分のための人生
「シケたツラしてるニャあ。酒がマズくなるからやめるニャ」
不意に声がして顔を上げると、ローテーブルの向かいに、ふてぶてしい顔つきの丸々と太った猫がどっかと座り込んでいた。 いつの間に部屋に入り込んだのか、私のツマミであるスルメを勝手に物色している。
「おい、お前どこから……って、私のスルメ!」
「吾輩はフクだニャ。それよりお前、貢いだ金で愛情が買えると思ってたなら大間違いだニャ。」
フクはスルメを器用に噛みちぎりながら、鼻で笑うように私を見た。
「あいつにとって、お前は都合のいいATM兼、ただの観客だニャ。そんな女のワガママに付き合って、自分をすり減らしてどうするニャ?」
図星を突かれ、私は言葉に詰まった。
「人間はバカだニャ。相手に合わせる前に、お前自身の人生だニャ。そんな誠実さの欠片もないメスに、お前の大事な未来をくれてやる必要なんてないニャ。」
フクは「このスルメ、硬いニャ」と文句を言いながら、窓の隙間から夜の闇へ消えていった。
呆然とする私の中に、怒りは湧かなかった。 代わりに、ずっと目を背けていた事実がストンと腑に落ちた。
私は、彼女とどうなりたいのか。こんな惨めな思いをしてまで、この関係の延長線上に幸せな未来を描けるのか。
答えは、最初から出ていた。 私は暗い部屋の明かりをつけ、スマートフォンを手に取った。








