冷たいダンボールと、押し付けられる「親切」
ピンポーン、と無機質なチャイムが響く。玄関のドアを開けると、配達員が抱えていたのは見覚えのある宛名のクール便だった。
まただ……
事前連絡なしに突然送りつけられる義母からの荷物。中身はきっと、私たちが頼んでもいない大量の食材だろう。
冷たいダンボールをリビングに運び入れながら、過去の記憶がドロドロと蘇ってきた。
新婚当初、「手伝うわよ」と毎週末のように泊まり込まれた1ヶ月間。私の好みを無視して付箋が貼られた家具のカタログ。
極めつけは、夫の海外赴任時に「落ち着いてから来て」と頼んだのに、勝手にチケットを取って同時期に押しかけてきたこと。
夫の貴重な休暇は義母の観光案内に消え、異国での生活基盤を整える負担はすべて私が一人で背負うハメになった。
娘の誕生日に「何が欲しい?」と聞かれて答えても、必ず違うものが届く。
義母の行動はすべて「自分のやりたいこと」の押し付けでしかないのだ。
「悪気はない」という最強の呪いと孤独
お義母さん、また連絡なしに荷物を送ってきて……
仕事から帰ってきた夫に訴えても、返ってくるのはいつも同じ言葉だ。
母さんは親切で、良かれと思ってやってくれてるんだからさ。悪気はないんだよ
その「悪気はない」という言葉が、一番私を苦しめるのだ。
悪気がないなら、私は迷惑だと感じてはいけないのだろうか。親切を素直に受け取れない私が歪んでいるのだろうか。
「私だって〇〇って名前をつけたかったわ」と娘の命名に口を出された時の悔しさ。これまでの数々の干渉。
思い出すたびに怒りと涙がこみ上げ、同時に「義母を嫌いと思ってしまう自分」が酷く冷たい人間に思えて、深い悲しみと自己嫌悪に陥っていく。
誰も私の心に寄り添ってくれない。リビングの明かりが、やけに白々しく感じられた。
嫌っていい。猫が教えてくれた「心の線引き」
ニャんだ、その段ボールを睨みつけて。親の仇かニャ?
突然、背後からしゃがれた声がした。
驚いて振り返ると、ふてぶてしい顔つきのちょっと太めの猫が、ソファの背もたれにどっかと座っていた。
え……? どこから……
オレ様はフクだニャ。お前、随分と窮屈そうに生きてるニャア
フクは長い尻尾を揺らしながら、私を鼻で笑った。
だって、お義母さんは親切でやってくれてるから。私が嫌いって思うのはおかしいし……
アホかニャ! 『親切に見せた自分の気持ちの押し付け』だニャ、そんなもん!
フクは大きなあくびをして、ビー玉のような目で私を真っ直ぐに射抜いた。
人間なんだから、生活を侵害されたら嫌に決まってるニャ。義母を『嫌い』でいいんだニャ。自分の気持ちを勝手に捻じ曲げるなニャ。
でも、せっかくくれたのに……
『ありがとう』って受け取って、あとはお前の自由だニャ。自分の好きなカーテンを買えばいいし、いらない物はメルカリで売るかリサイクルに出せばいいニャ! 勝手に他人の領土(テリトリー)を荒らさせるなニャ
その言葉が、ガチガチに固まっていた私の心を一気に解きほぐした。
そうだ。無理に合わせる必要なんてなかったんだ。嫌なことは嫌だと思っていい。
……ありがとう、フク。私、もっと線引きしてみる
私が呟くと、フクは「自分の城は自分で守るニャ」と鼻を鳴らし、開いた窓の隙間からふらりと消えていった。
床に置かれたダンボールを見下ろす。もう、罪悪感は湧かなかった。必要なものだけを取り出し、残りは潔くお裾分けに回そう。
スマホを手に取り、私は自分の本当に好きなインテリアのサイトを開いた。
登場人物紹介:フク
おう、俺の名前は「フク」だニャ。
たまお悩み相談室のWEB小説に、気まぐれでふらりと現れる猫だニャ。
ちょっと太めでふてぶてしい顔? うるさいニャ、これが俺のベスト・フォルムなんだから放っておけニャ。
俺の生き方は究極の「自分ファースト」だニャ。
美味しいおやつをもらった時しか喉は鳴らさないし、愛想笑いなんて絶対にしない。人間の社会にある「こうあるべき」とか「いい妻・いいお母さんでいなきゃ」なんていう謎のルール、俺たち猫には一切関係ないニャ。
なんで俺がアンタの前に現れるかって?
他人の顔色ばっかり伺って、自分を押し殺してボロボロになってる人間を見ると、なんだか見ててイライラするからだニャ。「自己犠牲」なんていう重たいもん背負ってるアンタに、俺が身も蓋もないツッコミを入れてやるニャ。
人間ってほんと、面倒くさい生き物だニャ。
嫌な時は噛む、寝たい時は寝る。それで嫌われるなら上等だニャ。アンタも俺みたいに、ガチガチに固まった肩の力を抜いて、もうちょっとワガママに生きてみろニャ🐾








