節約レシピの虚しさと、彼の開き直り
スーパーの特売肉を炒めながら、私はスマートフォンの画面で「もやし かさ増しレシピ」をスクロールしていた。 換気扇の音に混じって、リビングからは彼が熱中しているスマートフォンゲームの派手な効果音が聞こえてくる。
アプリで出会って交際2年、同棲してもうすぐ1年。 結婚前提で一緒に住み始めたはずなのに、今の私の心は冷え切っている。
病歴がある彼は、アルバイトをしながら公務員試験を目指している。 しかし、結果は2年連続の不合格。ろくに机に向かう姿すら見ないのに、彼は「俺を落とすなんて、今の社会はおかしい」と世間のせいにしてばかりだ。
先日、ついに耐えきれず「今のままでは結婚できない」と伝えた。 しかし彼は悪びれることもなく、こう言い放ったのだ。
試験の合否なんて、俺だけの問題じゃないし。運もあるだろ?
フライパンを煽る手がピタリと止まる。 私を大切にしてくれているのは分かる。でも、彼に対する「尊敬」は、もう1ミリも残っていなかった。
崩れゆく夢と、損をするのが怖い私
私は彼を支えるために、残業の少ない仕事へ転職までした。 毎日お弁当を作り、1円でも安いスーパーをハシゴして懸命に節約しているのに、彼の貯金はゼロ。
夜、クローゼットの奥に隠している自分の通帳を開く。 私には昔から「自分の子供を持つ」という夢があった。そのために、独身時代からコツコツと貯金をしてきたのだ。
でも、このまま彼と結婚したらどうなる?
不妊治療費も、出産費用も、子供の学費も、全部私が一人で負担することになるんじゃないか。
そう想像した瞬間、底知れない恐怖と絶望で胸が押し潰されそうになり、通帳の数字が涙で滲んでいった。
今すぐ別れたい。でも、私が彼に費やした時間と労力はどうなるの? 結婚しても地獄、別れても私だけが損をする気がして、ただ震えることしかできなかった。
ベランダの珍客と、未来のための「損切り」
バカだニャあ。そんな底の抜けたバケツに、いつまで水を注ぐつもりだニャ
不意に声がして涙を拭うと、網戸越しのベランダに、ふてぶてしい顔つきの丸々と太った猫が座っていた。その猫は、器用に前足で網戸を開けると、のっそりと部屋の中へ入ってきた。
えっ……猫? どこから……
吾輩はフクだニャ。おいお前、『損したくない』ってしがみついてるうちに、もっと大事な『自分の人生の時間』をドブに捨ててることに気づいてないのかニャ?
フクは私の足元まで歩いてくると、大きなあくびを一つした。
試験に落ちたのを社会のせいにするオスなんて、野生なら真っ先に淘汰されるニャ。お前、そんなヒモ男の『母親』になるために、今までせっせと貯金してきたのかニャ?
痛いところを突かれ、私は言葉を失った。
損か得かなんて、死ぬ時にならなきゃ分からないニャ。他人の人生を背負い込んでピーピー泣くくらいなら、さっさと損切りして、自分の思い描いた未来に向かって歩き出せニャ。
フクは「ここは飯の匂いしかしないニャ」と鼻を鳴らし、再びベランダの暗闇へと姿を消した。
部屋には静寂が戻り、リビングからは相変わらずゲームの音が聞こえてくる。 けれど、私の心の中の迷いは、嘘のように晴れていた。
……私の夢は、あんたを養うことじゃない
私は通帳をしっかりと鞄にしまい込み、同棲解消に向けた部屋探しのアプリをインストールした。
登場人物紹介:フク
おう、俺の名前は「フク」だニャ。
たまお悩み相談室のWEB小説に、気まぐれでふらりと現れる猫だニャ。
ちょっと太めでふてぶてしい顔? うるさいニャ、これが俺のベスト・フォルムなんだから放っておけニャ。
俺の生き方は究極の「自分ファースト」だニャ。
美味しいおやつをもらった時しか喉は鳴らさないし、愛想笑いなんて絶対にしない。人間の社会にある「こうあるべき」とか「いい妻・いいお母さんでいなきゃ」なんていう謎のルール、俺たち猫には一切関係ないニャ。
なんで俺がアンタの前に現れるかって?
他人の顔色ばっかり伺って、自分を押し殺してボロボロになってる人間を見ると、なんだか見ててイライラするからだニャ。「自己犠牲」なんていう重たいもん背負ってるアンタに、俺が身も蓋もないツッコミを入れてやるニャ。
人間ってほんと、面倒くさい生き物だニャ。
嫌な時は噛む、寝たい時は寝る。それで嫌われるなら上等だニャ。アンタも俺みたいに、ガチガチに固まった肩の力を抜いて、もうちょっとワガママに生きてみろニャ🐾








