支援の裏側で渦巻く、冷たい空気
「お疲れ様です」 相談者の方を笑顔で見送り、スタッフルームの扉を開けた瞬間、さっきまでの温かい空気が嘘のように凍りついた。
デスクの島を隔てて、ヒソヒソと交わされる声。誰かが席を外せば、すかさず始まる品定めに似た陰口。私が自分の席につくと、不自然にピタリと会話が止む。その沈黙が、背中にじっとりと冷たい汗を伝わせた。
(また、私のことを言っていたのかもしれない……)
私はパソコンのモニターに視線を落とし、ただひたすらにマウスを動かした。キーボードを叩く音だけが、やけに大きく響く。
人を支援し、社会へと送り出す。そんな尊い仕事をしているはずの場所が、これほどまでに殺伐としているなんて。
働き始めて半年。専門職としての誇りを持って飛び込んだこの職場は、妬みや告げ口、足の引っ張り合いが日常茶飯事だった。誰もがそのギスギスした空気を「当たり前」として受け入れていることが、私にはどうしても理解できず、毎日のように心が削られていった。
誰にも言えない、息の詰まる帰り道
夜、最寄り駅からの暗い道を歩きながら、重いため息がこぼれた。 ポケットの中でスマホが震え、家族からの「夕飯どうする?」という無機質なメッセージが画面に光る。それに返信する気力すら、今の私には残っていなかった。
仕事自体には、確かなやりがいを感じている。今日面談したあの若い女性の、少しだけ前を向いた瞬間の表情を思い出すと、この仕事を辞めたくないと強く思う。
けれど、「職場の裏側で、自分はどんな目で見られ、何を言われているのだろう」という疑心暗鬼が、真綿で首を絞めるように私の息を奪っていく。
誰かに味方になってほしいわけじゃない。ただ、普通に、穏やかに仕事をしたいだけなのに。年齢を重ねてからの転職で、簡単には辞められないというプレッシャーも重なり、暗闇の中で一人、出口のない迷路を彷徨っているような孤独を感じていた。
私が「私」でいるための、小さな決断
帰宅し、誰もいないリビングで温かいハーブティーを淹れた。マグカップの温もりが、こわばった手のひらから少しずつ心を解かしていく。
ふと、水面に映る疲れ切った自分の顔を見て思った。 私は、誰のためにここで悩んでいるのだろうか?
私がいくら怯えても、他人の口を塞ぐことはできない。裏で何を言われているかなど、確かめようもないし、コントロールもできないのだ。他人の悪意に怯えて自分を見失うなんて、そんな馬鹿げたことはもう終わりにしよう。
陰でコソコソと他人を貶める人たちは、きっといつか、その毒で自分自身を滅ぼしていく。そんなものに、私の大切な時間や感情をすり減らして関わる必要はないのだ。
明日もあの冷たい扉を開ける。でも、もう無理に空気に馴染もうと縮こまるのはやめよう。 「私は、私の仕事に集中する。明るく、元気に、私の前にある責任を果たす」
そう心の中で呟くと、胸の奥につっかえていた黒い石が、少しだけ軽くなった気がした。 一人で抱え込まず、今の自分の本音を誰かに打ち明けて整理することができたら、もっと身軽になれるのかもしれない。まずは明日、真っ直ぐに背筋を伸ばして「おはようございます」と言うことから始めてみよう。








