ふと、「あぁ、生きるのがめんどくさいな」と呟いてしまうことはありませんか?
朝、目が覚めた瞬間に「また一日が始まるのか」と気が重くなる。
以前は当たり前にできていた食事の支度や掃除が、どうしようもなく億劫に感じる。
そして、そんな無気力な自分のことを「なんて怠け者なんだろう」と責めてしまう…。
もし今、あなたがそんな状態にあるのなら、まずはこの言葉を届けさせてください。
「それは、あなたが怠けているわけでも、ダメになったわけでもありません」
これまで多くの60代の方とお話ししてきましたが、実はこの「めんどくさい」という感情は、人生を一生懸命走り抜けてきた人にだけ訪れる「休息のサイン」なのです。
今日は、なぜ60代になると急に生きるのが面倒になってしまうのか、そしてそんな時はどう過ごせば心が少し楽になるのか。
東洋医学と心理学の視点から、あなたへの「処方箋」をお届けします。
今は無理に元気を出そうとせず、横になりながらぼんやりと読んでみてくださいね。
たま先生(中森 万美子)
「中森万美子鍼灸院」院長、「たま お悩み相談室」代表カウンセラー。 東洋医学で体を整え、カウンセリングで心に寄り添う「心身一如」のケアが信条。 FM845パーソナリティ。SNSフォロワー4万人超。著書『40歳からの幸せの法則』。
- 1. 60代で急に「生きるのがめんどくさい」と感じてしまう3つの理由
- 1.1. 仕事や子育てが終わった後の「燃え尽き」と喪失感
- 1.2. 東洋医学で考える60代のエネルギー切れ「気虚(ききょ)」
- 1.3. その不調、実は「アフター更年期」の影響かもしれません
- 2. 「何もしたくない」60代が無理にしてはいけない3つのこと
- 2.1. 「何か趣味を見つけなきゃ」と新しいことを始める
- 2.2. 楽しそうな同世代の友人と今の自分を比べる
- 2.3. 無気力になってしまった自分を「ダメだ」と責める
- 3. たま先生流|生きるのがめんどくさい時こそ試してほしい「心の休ませ方」
- 3.1. 思考を止めて「体を温める」ことだけに集中する
- 3.2. 60代からは「足し算」ではなく「引き算」で生きる
- 3.3. 誰かに話を聞いてもらって「心のデトックス」をする
- 4. まとめ:60代の「めんどくさい」は、次の季節へ向かうための充電期間
60代で急に「生きるのがめんどくさい」と感じてしまう3つの理由
「若い頃はもっと動けたのに」「もっと意欲があったのに」
そうやって過去の自分と比べて落ち込んでしまうかもしれませんが、60代の「めんどくさい」には、明確な理由があります。それは決して、あなたの心が弱いからではありません。
仕事や子育てが終わった後の「燃え尽き」と喪失感
60代は、人生で最も大きな「役割の変化」が訪れる時期です。
定年退職をして仕事という「戦場」から離れたり、子供が完全に自立して「親としての務め」が一段落したり。
これまでは「やらなければならないこと(義務)」があなたを突き動かすガソリンになっていました。それが急になくなったことで、心にぽっかりと穴が開いてしまうのです。これを心理学的には「荷降ろし症候群」や「空の巣症候群」とも呼びますが、私はシンプルに「人生の燃え尽き」だと考えています。
マラソン選手がゴールテープを切った後に、そのまま倒れ込んで動けなくなるのと同じこと。あなたは今、長い人生のマラソンの一区切りを走り終え、倒れ込んでいる状態なのです。そこで「すぐに次のレースを走れ!」と言う方が無理な話ですよね。
東洋医学で考える60代のエネルギー切れ「気虚(ききょ)」
私の専門である東洋医学の視点でもお話しさせてください。
東洋医学では、生命活動のエネルギー源を「気(き)」と呼びます。
人間は誰しも、加齢とともにこの「気」の総量が少しずつ減っていきます。特に60代は、生命力の源である「腎(じん)」の力が弱まりやすく、電池の持ちが悪くなっている状態です。これを「気虚(ききょ)」や「腎虚(じんきょ)」と言います。
「めんどくさい」というのは、体があなたに対して出している「バッテリー残量が少なくなっています。これ以上アプリを立ち上げないでください」という警告アラートのようなもの。
つまり、あなたの体は正常に機能して、あなたを守ろうとしてくれているのです。
その不調、実は「アフター更年期」の影響かもしれません
もう一つ、忘れてはいけないのがホルモンバランスの影響です。
「更年期はもう終わったはず」と思っている方も多いですが、閉経後の60代前半は「アフター更年期」とも呼ばれ、ホルモンの減少に体が慣れようとしている過渡期でもあります。
自律神経が乱れ、理由もなくイライラしたり、落ち込んだり、体が鉛のように重くなったりするのは、あなたの性格のせいではなく、体の仕組みの問題かもしれません。
「もしかして、この不調は体のサイン?」と気になった方は、一度ご自身の状態をチェックしてみることをおすすめします。原因が「体」にあるとわかるだけで、心の重荷がフッと軽くなることもありますよ。
【更年期診断|イライラ・不調はサイン?10の質問で今すぐセルフチェック】
「何もしたくない」60代が無理にしてはいけない3つのこと
「めんどくさい」と感じている時に、真面目な人ほどやってしまいがちな「NG行動」があります。もし次のようなことをしていたら、勇気を持って「やめて」みましょう。
「何か趣味を見つけなきゃ」と新しいことを始める
世の中の雑誌やテレビでは「アクティブシニア」「60代からの習い事」といった特集が組まれていますが、エネルギーが枯渇している時に新しいことを始めるのは、ガス欠の車で坂道を登るようなものです。
「暇だから辛いんだ、何か始めなきゃ」と無理やり予定を詰め込むと、余計にエネルギーを消耗し、すぐに挫折して「やっぱり私はダメだ」と自己嫌悪に陥る悪循環になります。
今は「何もしない」という贅沢な予定を楽しんでいい時期なのです。
楽しそうな同世代の友人と今の自分を比べる
SNSや同窓会で、旅行に行ったり孫と遊んだりして輝いている友人を見ると、「それに比べて私は…」と惨めな気持ちになるかもしれません。
でも、人の人生には「活動期」と「休息期」というバイオリズムがあります。友人はたまたま今が「活動期」なだけ。あなたは今「休息期」なだけ。ただそれだけの違いです。
冬に咲かない桜がないように、あなたにも必ずまた自然と動きたくなる春が来ます。今はカーテンを閉めて、自分の内側だけを見つめてあげてください。
無気力になってしまった自分を「ダメだ」と責める
これが一番、あなたのエネルギーを奪います。
「ご飯を作るのがめんどくさい」と思った時、「主婦失格だ」と自分を責めるのと、「今日はコンビニのお弁当でいいや、私お疲れ様」と自分を許すのとでは、翌日の回復力が全く違います。
「めんどくさい」と思う自分を、「正直でよろしい!」と褒めてあげてください。自分の本音を無視せず、キャッチできたこと自体が素晴らしいことなんですよ。
たま先生流|生きるのがめんどくさい時こそ試してほしい「心の休ませ方」
では、この「めんどくさい」時期をどう過ごせばいいのでしょうか。
難しいことは言いません。思考を使わず、体が喜ぶことだけをする。それが「たま先生流」の養生法です。
思考を止めて「体を温める」ことだけに集中する
心が疲れている時は、頭(思考)がオーバーヒートして、体(中心)が冷えている状態がほとんどです。
こんな時は、理屈抜きで物理的に「温める」のが一番効きます。
お気に入りの入浴剤を入れて、少しぬるめのお湯にゆっくり浸かる。
レンジで温めるホットパックを目元や首元に乗せる。
おへその下(丹田)にカイロを貼る。
「温かいなぁ」と感じるその瞬間、人の脳は不安を感じることができません。強制的に「ほっ」とする時間を作ってみてください。鍼灸院でお灸をするのも、強制的にリラックススイッチを入れるとても良い方法ですよ。
60代からは「足し算」ではなく「引き算」で生きる
これからの人生は、何かを得ようとする「足し算」ではなく、手放していく「引き算」で考えてみましょう。
義理の年賀状をやめる。
気が乗らないランチ会は断る。
「~しなければならない」という口癖をやめる。
荷物を減らせば減らすほど、歩くのは楽になります。「生きるのがめんどくさい」というのは、「荷物が重すぎますよ、降ろしてください」という心の声かもしれません。
誰かに話を聞いてもらって「心のデトックス」をする
もし、漠然とした不安や、家族には言えない愚痴が心に溜まっているなら、それを外に出す(デトックスする)ことが必要です。
体の中の毒素を出すように、心の中のモヤモヤも言葉にして吐き出さないと、どんどん腐敗して重くなってしまいます。
利害関係のない第三者、例えば私たちのようなカウンセラーに話すだけでも、「あ、私こんなに辛かったんだ」と気づき、涙と共に浄化されることがあります。
まとめ:60代の「めんどくさい」は、次の季節へ向かうための充電期間
「生きるのがめんどくさい」
そう感じてしまう今の自分を、どうか嫌わないでください。
それは、あなたが60年という長い歳月を、誰かのために、何かのために、懸命に生きてきた何よりの証拠なのですから。
海に「凪(なぎ)」の時間があるように、人生にも風が止まる時間は必要です。
今は無理に帆を上げようとせず、波に揺られながら、空を見上げてぼんやりしていてください。
体さえ温めて、自分を責めずに過ごしていれば、いつか必ず「あ、ちょっと美味しいコーヒーが飲みたいな」という小さな意欲が芽生える日が来ます。それが、次の季節の始まりです。
もし、どうしても辛くて一人では抱えきれない時は、いつでも「たま先生」を頼ってくださいね。

