60歳「生きるのが辛い」あなたへ。鍼灸師・カウンセラーが教える心と体の整え方

ふと、窓の外を眺めていて涙が出てきたり、朝目覚めた瞬間に「また今日が始まってしまう」と重たい気持ちになったりしていませんか？

あるいは、「もう還暦も過ぎたのに、これからの人生が不安で仕方がない」「誰にも必要とされていないような気がして虚しい」……そんな思いを一人で抱え込んでいないでしょうか。

もし、あなたが今、60歳を迎えて「生きるのが辛い」と感じているのなら、どうかご自分を責めないでください。

その辛さは、あなたが弱いからでも、甘えているからでもありません。

ここまで家族のため、会社のためにと一生懸命に走り続けてきた、何よりの証拠なのです。

今日は、「中森万美子鍼灸院」の院長として、そして「たま お悩み相談室」のカウンセラーとして、心と体の両面から、今のあなたの辛さを少しでも和らげるためのヒントをお話しします。

なぜ60歳で「生きるのが辛い」と感じてしまうのか

「昔はもっと元気だったのに」「なんでこんなに落ち込んでしまうんだろう」

そう思うかもしれませんが、60歳という年齢は、人生の中で最も環境と心身が激変する時期の一つです。辛さを感じるのには、明確な理由があります。

定年・子育て終了による「役割の喪失感」と孤独

これまであなたの人生を支えていた大きな柱――「仕事」や「子育て」がひと段落する時期です。

これらは大変な重荷だったかもしれませんが、同時に「誰かに必要とされる役割」でもありました。

定年退職して肩書きがなくなったり、子供が巣立って家が静まり返ったりした時、「私にはもう何もない」「社会から取り残されたようだ」という強い喪失感（エンプティネスト症候群）に襲われるのは、とても自然な心の反応です。これを心理学では「アイデンティティ・クライシス（自己喪失）」と呼びます。

老後2000万円問題など「将来への経済的不安」

ニュースをつければ「老後資金」の話題ばかり。年金だけで暮らしていけるのか、病気になったらどうしようか……。

現役時代にはなんとかなると思っていたことが、いざ60歳を目の前にすると、現実的な恐怖としてのしかかってきます。この「見えない将来への不安」が、日々の生きづらさを増幅させてしまいます。

60代特有の「体の変化」と「自律神経の乱れ」

そして、見逃せないのが「体の変化」です。

鍼灸師の視点からお伝えすると、60代は体のエネルギーバランスが大きく変わる時期。加齢に伴い、自律神経の調整機能が低下しやすくなっています。

「なんとなくダルい」「眠れない」「動悸がする」といった不調は、気持ちの問題ではなく、体のSOSサイン。体が辛ければ、心も自然とネガティブな方向へ引っ張られてしまうのです。

「生きるのが辛い」原因は更年期や身体の不調にある可能性も

「更年期はもう終わったはず」と思っていませんか？

実は、閉経後や定年後の60代でも、ホルモンバランスや自律神経の影響で、心身の不調が続くことがあります。

閉経後も続く？60代の「アフター更年期」とは

一般的に更年期は閉経の前後5年（50歳前後）と言われますが、その後も女性ホルモンが減少した状態に体が慣れるまで、不調が続くことがあります。これを「アフター更年期」と呼ぶこともあります。

男性の場合も、男性ホルモンの減少による「LOH症候群」が60代で顕著になることがあり、これが意欲低下やうつ症状の原因になることも少なくありません。

イライラや不調はサイン？まずはセルフチェックを

「生きるのが辛い」という感情が、実は体の不調から来ているサインかもしれません。

原因が「自分の性格」ではなく「体のメカニズム」だとわかるだけで、少し心が楽になることがあります。

まずは一度、ご自身の状態を客観的にチェックしてみませんか？

私が監修したセルフチェックシートをご用意しました。

「更年期診断｜イライラ・不調はサイン？10の質問で今すぐセルフチェック」はこちら

東洋医学で見る60歳の体調変化「腎虚（じんきょ）」

東洋医学では、60歳前後は「腎（じん）」の気が衰える「腎虚（じんきょ）」の時期と考えます。

「腎」は生命エネルギーの貯蔵庫であり、ここが弱まると、気力が湧かなくなったり、不安感が強くなったり、足腰が冷えたりします。

つまり、今のあなたの辛さは、生命エネルギーが一時的に不足している状態。「気合」でどうにかしようとするのではなく、減ってしまったエネルギーを優しく補ってあげることが大切なのです。

60歳からの「生きるのが辛い」気持ちを和らげる3つのヒント

では、具体的にどうすればこの辛いトンネルから抜け出せるのでしょうか。

今日からできる、心と体を整える3つのヒントをお伝えします。

1. 生産性を手放し「何もしない時間」を自分に許可する

真面目な方ほど、「毎日何か生産的なことをしなければ」「ダラダラしてはいけない」と自分を律しがちです。

でも、60代からは「何もしないこと」も大切な養生の一つです。

天気の良い日にぼーっと空を見る、目的もなく散歩する。そんな「余白の時間」こそが、疲弊した脳と心を休ませ、エネルギーをチャージしてくれます。「今日は何もしなかった」ではなく、「今日は自分を休ませてあげられた」と自分を褒めてあげてください。

2. 鍼灸師が教える「心を整えるツボ」と「呼吸法」

不安で胸が苦しい時や、眠れない夜におすすめのツボと呼吸法をご紹介します。

・ツボ：労宮（ろうきゅう）

手を軽く握った時、中指の先が手のひらに当たるところにあるツボです。ここを親指で「痛気持ちいい」強さで5秒間押し、ゆっくり離します。これを5回繰り返しましょう。精神的な疲れを取り、気分を落ち着かせる効果があります。

・呼吸法：1:2の法則

不安な時は呼吸が浅くなっています。4秒かけて鼻から息を吸い、8秒かけて口から細く長く息を吐き出します。「吐く」ことに意識を向けることで、副交感神経が高まり、リラックスできます。

3. 家族や友人以外の「第三者」に話を聞いてもらう

「辛い」という気持ちは、外に出さないと体の中で腐敗し、毒になってしまいます。

でも、家族には心配をかけたくないし、友人には愚痴だと思われたくない……そう思って口をつぐんでいませんか？

そんな時こそ、利害関係のない「第三者」を頼ってください。

私たちのようなカウンセラーは、あなたの話を決して否定せず、ジャッジもしません。ただ、あなたの心の重荷を一緒に背負い、整理するお手伝いをします。

「話す」ことは「放す」こと。言葉にするだけで、心の重さが半分になることもあります。

60代は「余生」ではなく「本来の自分」に戻るスタートライン

60歳を「人生の終わりへのカウントダウン」と捉えるか、「新しい章の始まり」と捉えるかで、見える景色は変わります。

「誰かのため」から「自分のため」の人生へシフトする

これまでの60年間、あなたは十分に「誰かのため」に頑張ってきました。

これからは、主語を「自分」に戻していいのです。

「家族が食べるから」ではなく「私が食べたいから」料理を作る。「会社のため」ではなく「私が楽しいから」本を読む。

そんな小さな選択の積み重ねが、失われた自分を取り戻すリハビリになります。

小さな「好き」を見つけることから始めよう

大きな趣味や目標を持つ必要はありません。

「朝のコーヒーの香りが好き」「道端の花が綺麗だった」

そんな小さな「好き」や「心地よい」を一日一つ見つけてみてください。

その積み重ねが、彩りのある日常を作っていきます。

まとめ：一人で抱え込まず、たま先生にお話しください

「60歳にもなって、生きるのが辛いだなんて……」

そんなふうに自分を卑下する必要はどこにもありません。

今あなたが感じている痛みは、あなたがこれまで懸命に生きてきたからこそ感じる、人生の勲章のようなものです。

もし、どうしても辛くて前を向けない時は、いつでも「たま お悩み相談室」の扉を叩いてください。

体からのアプローチが必要なら、鍼灸師としての視点もお伝えできますし、ただ話を聞いてほしいなら、カウンセラーとして心に寄り添います。

あなたは一人ではありません。

心と体が整えば、必ずまた、穏やかな笑顔で過ごせる日が来ます。

まずは、今日ここまで頑張って生きてきたご自身を、優しく労ってあげてくださいね。